
前回までのあらすじ
高校のとき、進路を保守的に選んだ。
冒険心よりも安全策を採った。
国家資格を取れば人生のさまざまが万事解決するのだ。
そう自分に云い聞かせた。
結果、簿記をやることになった。
簿記が嫌いだった。
脳みそがオーバーヒートした。
大学三年の夏、初めて税理士試験を受けた。
散々な出来だった。
不合格だった。
平成三年が暮れようとしていた。
落ちたとて
税理士試験の最初の一科目に落ちた。
落ちたとは云う条、人生がすぐに危険にさらされるわけではなかった。
落ちたとは云う条、進級や進学や卒業や就職ができなくなるわけではなかった。
当面、目先の人生は何も変わらないのだ。
目に見える罰則は何もないのだ。
しかしだからこそ、資格試験をクリアするのは難しい。
落ちたとて、これまで同様の生活が続けられるなら、歯を食いしばって頑張る気持ちにはなれぬのだ。
もちろん長期的に見るとそれは違う。
違うとは分かってい乍ら、人間、長期的視点で努力を続けるためには強固な意志が必要なのだ。
目先の人生に何ら支障がなければ、薄弱な意志はすぐに削がれてゆく。
成すべき努力は後回しになり、いつしか日常に埋もれ、情熱は置き去りにされるのだ。
強固な意志は、まだなかった。
落ちたとて、大学三年生だった。
まだまだ気楽な学生の身分だった。
若かりし日々は人との交流が活発だった。
友人と会えば何時間でも飽きずに話ができた。
毎日会って、次の日会っても飽きずに話ができた。
試験に落ちた嫌な気持ちも、すぐに忘れてしまった。
不合格通知を受け取った五日後、実家に帰省した。
年末だった。
平成三年が暮れようとしていた。
大晦日の夜、実家の自室に友人が10人ほど集まった。
狂ったような酒宴が始まった。
新年早々叱られる
友人と会うのは楽しかった。
テンションは青天井に上がった。
酒と年末の空気感が、気持ちの昂ぶりに拍車をかけた。
つい羽目を外した。
否、最初から羽目を外すつもりで、予定通り羽目を外した。
日付が変わる直前までに、全員が相当出来上がっていた。
新年のカウントダウンと共に、我らは外に飛び出した。
ズボンもパンツも脱いでいた。
下半身だけのストリーキングだった。
脱ぐのは高校2年の修学旅行から日常茶飯事だった。
大笑いして喚きながら、家の前の道を走って往復した。

私の父は海の町育ちで、地声が大きかった。
普段めったに怒鳴ることはなかったが、さすがに大声で怒鳴られた。
平成四年は叱られて始まった。
我々は泥酔していたので、なかなか大人しくしなかった。
それどころか一層暴れ、友人のボロ車を破壊した。
若気の至りだった。
エネルギーは有り余っていた。
そのエネルギーを勉強に振り向ける術は、未だ持っていなかった。


帰京
この調子で正月の激しい毎日が過ぎた。
5日に帰京したが、飽き足らずに友人と長電話した。
翌6日からTACの法人税の授業が始まった。
簿記論に落ちたので、履修科目を見直さねばならなかった。
一緒に学んだF原くんは受かったのだろうか。
次の日、電話をしてみた。
(続く)
跋語
『書楼弔堂 破曉』/京極夏彦/集英社文庫/令和8年5月10日(日)読了
『鬼平犯科帳 決定版(一)』/池波正太郎/文春文庫/令和8年5月13日(水)読了
『ボブ・ディラン』/北中正和/新潮新書/令和8年5月14日(木)読了
『超ボブ・ディラン入門』/中山康樹/音楽之友社/令和8年5月15日(金)読了
