複式簿記断腸録〈其の陸ー6ー〉簿記3級をあきらめる

前回までのあらすじ

今は税理士の私だが、かつて簿記を大の苦手としていた。
税理士試験の簿記論にも三年連続落ち続けた。
なぜ苦手意識がついてしまったのか?

平成元年
首都圏の大学の商学部に入学し、そこで初めて簿記に触れたところ、全く好きになれない。
東京での学生生活にも今ひとつ馴染めず、何やらこれは思ってたのと違う。

六月の簿記検定に向けて悪戦苦闘するが・・・・・・。

本当に公認会計士を目指すのか? 俺が?

どうしても興味が持てなかった。
商学部の講義内容、簿記、その延長上にある公認会計士、税理士の資格、仕事内容に。

大学に入学間もない頃、学内で公認会計士の仕事内容を紹介するイベントがあった。
そこで上映された映像は、若手会計士が現場で奮闘する様子を追いかけ、最後にインタビュアーの問いに対し、
「やりがいのある仕事です!」
と力強く答えるものだった。


それを観て、私は全身に力が漲り、沸々とモチベーションが湧き出て・・・・・・
ということには全くならなかった。

むしろ逆で、公認会計士の資格にも仕事にも全く魅力を感じないどころか、俺、こんな仕事やりたくねえ!とさえ思った。


一緒に参加していた高校からの同級生KT君は、会計士の報酬の高さに惹かれたようで、
「いまいちピンとけえへんわ」
と懐疑的な態度の私に対し、
「でもおいしいやん」
と、ずいぶん乗り気のように見えた。

3級の検定に間に合わず

今はいざ知らぬが当時の公認会計士の二次試験は七科目一括合格が求められ、中でも最大の難関とされていた科目が「経済学」であり、そこには私の苦手な ”数式” がふんだんに登場する。
そうは云い条、入学当初私は会計士試験を受ける意向でいたので、当時バイブルとされていた中谷巌著『入門マクロ経済学』を早々に購い、これを読み進めていた。

しかしこれは、数学ができずに英、国、社の受験で私立文系の大学に滑り込んだ私にとって些か敷居が高すぎた。

経済学どころか入り口の簿記で大いに躓いたうえは、早々に己の適性について疑いを持たざるを得ぬ。

入学したばかりではあったが、来るべき場所を間違えたのではないかと悶々と悩む日々である。
ある夜、一晩中眠らずに考えた結果、在籍する商学部は辞し、本当に行きたかった文学部へ転部しようと思い詰めるに至った。

しかし転部すると云って、そもそもそんな制度があるのか、あったとてどこで誰に何を聞き、何から始めれば良いのか皆目見当もつかず、手も足も出ぬままに日を経てた。

迷いながら簿記を続けていたある日、とあるサークルで知り合った同じ商学部の四年生の先輩が遊びに来た。
その折、簿記についていろいろ質問したのだが、私の顔がよっぽど険しかったのだろう。ポツリと
「お前、簿記苦手そうだな・・・・・・」
と呟いたものである。


結句、入学して最初の実施となる、六月の日商簿記検定、3級の受験をあきらめる仕儀となった。


新たなる混乱の芽

そして丁度その頃、実家で一大事が勃発していた。

母が蒸発してしまったのである。

六月の下旬、その母から長い手紙が届いた。




(続く)


跋語

◆◆此の処の日乗◆◆

Apple心斎橋にてMacbook Air、iPad Pro、iPhoneを廃棄

◆◆最近の未知との遭遇◆◆

三木楽器アメリカ村店

リフォーム後の欧風料理重亭

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◆◆最近読み終えた本◆◆

『蠕動で渉れ、汚泥の川を』/西村賢太/角川文庫/2025年4月7日読了

『詩を書くってどんなこと?』/若松英輔/平凡社/2025年4月15日読了