複式簿記断腸録〈其の拾肆ー14ー〉アイドルを見に行く

前回までのあらすじ

平成五年の二十三歳時、三年連続で税理士簿記論の試験に落ちた。

簿記を始めた大学一年の平成元年春、そもそも最初から好きになれない。
生活環境も変わり戸惑いつつ、一年の秋に日商三級、二年の春に二級を取得。

大学三年になり受験専門校TACの税理士講座に通うことになったが・・・・・・。

重要なミッションが下る

その日私は東京サマーランドに居た。

関東在住の方ならおわかりかと思うが、東京サマーランドとはプールと遊園地が併設された遊戯施設であり、私が棲息して居た東京都F市よりもさらに西方に位置している。

TACの講義が始まったのが平成三年四月二十四日水曜日で、サマーランドに居たのがその四日後の日曜日のことである。
つまり、既に地獄のカリキュラムが始まっているにも係わらず、とあるミッションを背負って私は遊園地に居たのである。


その経緯は次の通りだ。


いよいよ講義が始まるという日、私は棲息地の最寄り駅から私鉄K線に乗り、水道橋の校舎まで電車を乗り継いだ。
K線から途中、都営線に乗り換えて神保町で降りたのか、新宿でJRに乗り換えて水道橋駅で降りたのかは日記帳にも記録が無く、私自身の脳中を探っても記憶が見当たらない。

しかし確かなことは、その何れかの、行きか帰りの電車内の広告にて、ある重要な情報を仕入れたと云うことである。



”推し” と云う言葉は令和現在の様な使い方をされていなかったが、当時の私の推しのアイドルが本田理沙であった。
失礼ながら彼女は超メジャー級と云う訳では無いのだが、アイドルに限らず私はそう云った少し王道から外れた何かに琴線を触れられる癖があった。
なかなかテレビや雑誌でもお目にかかることが無かったのだが、彼女が渡辺徹とMCをしていたテレビ東京の「スーパーマリオクラブ」は欠かさず視聴し、毎週テレビの前からホットな視線を注いでいた。


さてTACへ通い始めた初日に電車内の広告にて見つけたのは、次の日曜日に東京サマーランドにおいてスプリングフェスティバルと称した本田理沙のオンステージが挙行されると云う、私にとっては最優先で予定しなければならない行事の告知であった。



スプリングフェスティバルに行く

初日の授業が終わったその夜、友人二人(男1、女1)に連絡を取り、次の日曜に皆でサマーランドに行こうではないかというオファーを提示した。
勿論目当ては本田理沙だが、根が策士にできてる私はそこを控えめに話し、サマーランドという施設へ遊びに行くのだという側面を強調するという塩梅式で、行きたくなるように二人を誘導し、首尾良く了解を取り付けた。


かくしてその日曜、私は朝九時に起床し、当時シュールだと話題で、欠かさず視ていた『不思議少女 ナイルなトトメス』というテレビ番組をきっちりと視聴した後、件の二人とサマーランドへと赴いた。

正午に始まった一回目のオンステージでは、目当ての本田理沙が真っ赤なミニのワンピースを身に纏い、同色のリボンで髪を結わえ、四十分ほどのパフォーマンスを披露した。




観客はどれほどいたか記憶にない。
ステージ上を使い捨てカメラで映した写真が二枚ほど残っているだけである。


さらにその後十四時から二度目のステージが予定されていたのだが、それは見ることなく(さほど熱狂的でもなかったようだ)、立ったまま高所から垂直に落下するフリーフォールなる遊戯器具に興じるなどした後、十六時半頃には帰室した。

推しとは云い条、彼女のCDの一枚も持っていなかったため、翌日水道橋での授業終わりに秋葉原まで足を伸ばし、石丸電気のCD売り場にて物色してみたのだが、残念ながら見つけることができない。

結句近所のレンタルビデオ店にて本田理沙主演のVシネマ『ハイヒールGANG』のビデオをレンタルした。
勿論今となっては内容のかけらも思い出せないし、そのようなビデオを借りたことさえ記憶にないが、日記によればレンタルしたその日のうちに視終わり、感想がひとこと「おもろなかった」と記録されている。


勉強もそこそこにこのようなことで日々を過ごしてしまい、四月が終わった。
まあ序盤は講義内容もオリエンテーション的な処があり、良しとしておこう。

しかし・・・・・・

魅力的なオファー来たる

六月といえば税理士受験生にとって重要な選択を迫られる時節である。

すなわち、その八月の試験を本気で受けに行くのか、記念受験にするのか、決意が問われるのだ。

授業内容をインプットする期間は終わり、いよいよ本番に向けて答練(答案練習、=模試)が始まる。
ここまでで相応の勉強量をこなしていなければ、答練に出席しても手持ち無沙汰になりかねぬのである。

そのような差し迫った六月十日、居室の置き電話に連絡が入った(勿論ケータイなどない時代である)。
高校の同級生で同じC大学在籍のK本氏からだった。
五日後の十五日土曜、在京者だけの同窓会が催されるというオファーである。


私は一も二もなく参加を表明した。





(続く)




跋語

◆◆此の処の日乗◆◆

・令和7年8月16日(土) 公式同窓会に出席、印象深い日となる

・九月初旬 沖縄行
  話題の施設ジャングリアを訪う
  他に首里城、美ら海水族館など

◆◆最近読み終えた本(ブクログに記録中)◆◆

『やまいだれの歌』/西村賢太/新潮文庫/令和7年9月11日(木)読了

◆◆お知らせ◆◆
税理士向井栄一の
プロフィール
サービスメニュー
税務記事
ブログ