
あだ名の下に「ソ」を付ける奇妙な習慣について
高校二年の時、私の人生は一度ピークを迎えた。
あの熱に浮かされたような青春の日々の幻影を、その後の人生において私はいつまでも追い続ける羽目となった。
この一年間のことを書こうと思うと、切り口が無数に出てくる。
今回は、我が2年1組の奇妙なあだ名の習慣から書き起こしたい。
T口氏のあだ名は「チーソ」であった。
あだ名の由来については、令和のコンプライアンス下において説明することを憚れるので、これは割愛しよう。
言葉というものは時代により変化するようだが、あだ名もまた変化する。
小中学校時代の級友のY氏のあだ名は「バーベキュー味」→「バーベキュー」→「バーベ」と短縮しつつ変遷していった。
「チーソ」もある単語の短縮形である。高校時代には既にその短縮形だったし、先にも触れたようにコンプライアンスを考慮して詳細な説明は避けたい。
その「チーソ」の最後の一文字、「ソ」のみを借用し、他の人間の名前やあだ名にジョイントする、という奇妙な現象が2年1組内で起こった。
たとえば筆者である私であれば「向井っそ」または「むかっそ」である。
「慎ちゃん」と呼ばれていたM下氏の呼び名は、「慎っそ」というとても発音しにくい呼び名に変化した。
(これなどは、敬称のかわりに「そ」を利用する典型的な例となり、呼び捨てするほどの間柄でないケースにおいて、便利に利用された。)
挙げ句の果てには借用元である「チーソ」にさらにソをつけ、「チーソッソ」という珍妙なあだ名も発生するに至った。
バレーボール部の主将を務めていたM川くんは、それまでずっと「キャプテン」と呼ばれていたが、これもまた「キャプッソ」という呼称に変化した。
「ソ」を付けたあだ名のいくつかはそのまま生き残り、50歳を過ぎた今でもそのまま使い続けられている。
「キャプッソ」もそのひとつであった。
そのキャプッソと、今生ではもう会えないこととなった。
あなたの人生ここまで!
キャプッソは令和八年四月七日、心筋梗塞により55歳で突如この世を去り、翌日私を含む同級生に連絡が廻った。
隣町の役場に勤務されていたので、仕事上、数えるほどだったが、顔を合わすことがあった。
人柄が良く、温厚篤実にして活動的、齢50を過ぎてもなおバレーボールに打ち込んでおられた。
葬儀は家族葬で営まれた由、四月十日、お別れできる時間があるとのことで、葬儀場を訪った。
本当に彼は亡くなったのかな。
この目で確かめるまでは、間違いということもあるではないか。
会場に入ると、精気ある遺影の下に、棺が安置されている。
紛れもないキャプッソ、M川くんが、目をつむって横たわっていた。
血の気のない唇の色を除けば、ふくよかで健康そうな顔が、突然の旅立ちであることを物語っていた。
キャプッソ、えらい往くん早いやん
何も言わんと
昨年夏の公式同窓会には参加されていなかったが、聞くところによるとバレーボールの大会と日程が重なってしまったらしい。
おそらく、直前まで元気で活動されていたのだと思う。
そして突然、君の人生ここまで!と言わんばかりに遮断されてしまった。
幻影は遠くなる
明日何しようか考えて、
来週何しようか考えて、
来月、来年はこうで、あれして、これして、あれもせなあかん、これはやっときたい。
あの人に会って、この人に会って、あいつにも会いたい、この人に会いたいけど向こうはどうだろう。
そのようにあれこれ思う三日後、人生が突如遮断されるかも知れない。
やろうと思っていたことはもうできない。
今世の命を燃やすことができない。
死んだら幕引き、そこまでの経験で終了。
熱狂の一年を共に過ごした同志がまた一人居なくなり、私が掴もうとしている幻影はまた遠くなった。
◆◆此の処の日乗◆◆
2月初旬、自転車で派手に転倒し、全身を激しく打撲する。
レントゲン写真に異常無いにもかかわらず、3月半ばを過ぎても左手の痛みが治まらない。
改めて検査に出向き、MRIの撮影に臨んだところ、左手の骨折が判明。
ギプス生活となる。
3月下旬、とあるイベントにて、ビートルズの『オクトパス・ガーデン』を歌う。ギターも演奏予定だったが、骨折のため断念。
『小銭をかぞえる』/西村賢太/文春文庫/令和8年2月1日(日)読了
『森田療法のすすめ ノイローゼ克服法』/高良武久/白揚社/令和8年2月1日(日)読了
『ひとりずもう』/さくらももこ/集英社/令和8年2月17日(火)読了
『自分なくしの旅』/みうらじゅん/幻冬舎文庫/令和8年2月24日(火)読了(再読)
『ユリイカ 詩と批評 総特集 みうらじゅん SINCE1958』/青土社/令和8年3月9日(月)読了
『日本語のレトリック 文章表現の技法』/瀬戸賢一/岩波ジュニア新書/令和8年3月12日(木)読了
『愛にこんがらがって』/みうらじゅん/角川文庫/令和8年3月21日(土)読了
『続・伊藤比呂美詩集』/伊藤比呂美/現代詩文庫/令和8年3月24日(火)読了
『若き詩人への手紙 若き詩人F・X・カプスからの手紙11通を含む』/ライナー・マリア・リルケ/未知谷/令和8年3月24日(火)読了
『どくとるマンボウ航海記』/北杜夫/新潮文庫/令和8年3月25日(水)読了
『うみべのまち』/佐々木マキ/太田出版/令和8年3月25日(水)読了
『ひどい民話を語る会』/京極夏彦/KADOKAWA/令和8年4月1日(水)読了
