
前回までのあらすじ
平成三、四、五年と、三年連続で税理士簿記論の試験に落ちた。
大学一年で始めた簿記はずっと嫌いで苦の種だったが、諸事象によりその苦痛と向き合う流れとなる。
大学三年から受験専門校TACの税理士講座、超短期コースに通い始め、いよいよ本番目前となった。
模擬試験
六月下旬になり、模擬試験が始まった。
税理士試験一科目につき合格割合は約一割だが、校内の模擬試験で上位三割に入っていれば合格と云われていた。
しかしこの超短期コースでは六月の時点で学習開始からまだ二ヵ月しか経過していない。
前年九月開講のレギュラーコース受講生は既に十ヵ月、一月開講の速修コースでも半年の学習期間を費やしてきているのである。
そこに再受験組も加われば、この超短期コースの受講生が互角に渡り合うのは至難だったであろう。
「あと一歩で爆発的に伸びる」
と担当講師のB谷氏が講義中に云ったのが、試験の一ヵ月前、七月の初旬である。
私はその言葉を都合良く自分に向けられたものと解釈し、盲目的に信じた。
そうは云い条、本当にあと一ヵ月で学力は向上するのだろうか。
講師は気休めを云っているのではないのか。
しかし今なら根拠があると確証できる。
というのは「べき乗」の考え方を知ったためである。
べき乗
私はこの後、何度も税理士試験を受け続けることとなるのだが、初めて学ぶ科目については本試験直前まで成績が上がらないと云うことを毎回体感した。
ところが、試験直前の七月になってから尻上がりに模試の順位が上がっていくこともまた体感した。
成績は徐々に上がるのではなく、ある時期から急激に上がるのだ。
なぜそのようなことが起こるのか。
脳の持つある特性にその秘密があると云うことを知ったのは、
『記憶力を強くする』(池谷裕二著、講談社ブルーバックス)
という本を読んでからだ。
かいつまんで云うとこうである。
目標の学力レヴェルを1,000に設定し、勉強を始めたとする。
しかし、努力の成果は正比例のグラフでは表れず、
1、2、4、8、16、32,64
と少しずつ累積効果を示すものの、低調な時期が長らく続く。
しかし、更に努力を続けると
64、128、256、512、1,024
と数値は跳ね上がる。
これをグラフにすると前半はほぼ平行線で成果が見えないが、ある地点から幾何級数的なカーブを描き、急激に上昇するのである。
これを「べき乗の効果」と呼ぶ。
私が体感したのがこれで、試験直前の七月になって急激に成績が伸びるのはこのような科学的根拠に基づくものであったらしい。
平成三年当時はこのことを知らなかったが、担当講師のB谷氏が「あと一歩で爆発する」と云うならそうなのだろう、俺も今から急激に成績が伸びるのだと、そこに至る下積みが無いにもかかわらず甘い目論見だけを抱いていた。
最終講義
平成三年七月十八日、TACの超短期コース、簿記論の最終講義が行われた。
担当講師のB谷氏は、受講生のために湯島天神に赴いて開運の鉛筆を購い、その日一人一人に配ってくれた。
それぞれ格言が印字されており、私が受け取ったものには
”人に頼るな 自分でなせば叶う”
とあった。
続いてB谷氏の受験当時の様子を書いたレジュメを基に、エピソードトークが始まった。
困難な試験であったが
「不思議と自信があった」
らしい。
思い返せば私自身も、試験にかかわらず事が上手く運ぶ時には何にやら流れに乗ったような、自信めいたものを感じていたものだ。
しかしこの時は完全に勘違いし、実力も無いくせに根拠のない自信だけを無理やり持とうとしていた。
B谷講師は続けてアドバイスを送った。
試験はとにかく解けるところを解いて虫食い式に解答欄を埋めよ。
そして最後の一分一秒まで粘り、試験終了の合図があってもまだ粘れ。
「そこの赤い服の君!」
と試験官に注意されない限りは大丈夫だ。
ギリギリまで粘って一点でも多くもぎ取るべし、と。
初めての本試験まで二週間を切っていた。
(続く)
跋語
◆◆此の処の日乗◆◆
令和7年12月27日(土) 四日市ライブハウス「Cherishtie」にてセッションステージに出演、OASISの『Don’t Look Back in Anger』の歌とギターを務める。
令和7年12月28日(日) 明野「銀次郎」にてかつての職場のOB会に出席
令和7年12月29日(月) 遠方より朋来たるあり、「焼き肉一升瓶」平生町店にて会食
令和8年1月2日(金) 高校の同級生数人と会食
令和8年1月3日(土) 高校の同級生と伊勢神宮参拝
