複式簿記断腸録〈其の拾参ー13ー〉どれぐらい勉強すれば合格するのか

前回までのあらすじ

平成五年、三年連続で税理士簿記論の試験に落ちた。

簿記を始めた大学一年の平成元年春、そもそも最初から好きになれない。
生活環境も変わり戸惑いつつ、一年の秋に日商三級、二年の春に二級を取得。

大学三年になり税理士試験に挑む段取りとなったが、ここに至って無謀な選択に打って出る仕儀となった。

モチベーション高潮時の勉強時間

曩時私は受験勉強に費やした時間を逐一帳面に記録していた。

と云ってもこの稿で述べつつある大学当時のものではなく、四十歳前後の、税理士試験再チャレンジ時の話である。

数々の人生の失態から、その頃は「合格しなければ人生終わり」ぐらいの差し迫った気持ちで勉強をしていたため、そのモチベーションたるや己れの人生で数えるほどしかないぐらい最高潮のものを、長期間にわたり維持していた。

未だ手許に残してあるその記録帳を紐解き、当時の勉強時間をここに書き写してみる。
以て大学時のモチベーションがいかほどであったのかを、比較検討することによって推し量ろうという試みである。



平成二十二年(西暦2010年)八月の税理士試験において、私は所得税法を受験したのだが、前年の試験で不合格であったためこの年は二度目であった。
税理士試験の合否は十二月に発表されるため、その通知後である十二月半ばからの記録である。

年月月勉強時間合計1日当たり平均
2009年12月
(9日間)
15時間35分1時間42分
2010年1月55時間1時間46分
2010年2月61時間58分2時間12分
2010年3月83時間20分2時間40分
2010年4月63時間30分2時間6分
2010年5月65時間44分2時間7分
2010年6月98時間25分3時間16分
2010年7月116時間35分3時間45分
2010年8月
(1〜3日の3日間)
21時間20分7時間6分
合計224日581時間42分2時間35分



この他に三時間の授業が週二回あったから、その合計およそ150〜160時間を合算すると約740時間ほどと推計される。
さらに、不合格となったその前年は一年間フル稼働の勉強であったから、上記に加えることおよそ千時間以上の下地もあった(それでも前年は落ちた)。
勿論、正社員として仕事をしながらの捻出時間である(加えて、五月下旬に拠点を東京から大阪に移している)。


この頃は受験生としてもベテランとなり(なりたくないが)、己れの勉強方法が確立されたうえは決めたことを淡々とやり続ける塩梅式で、この年十二月には所得税法の合格通知を受け取っている。


種々の状況の違いから単純に比較できないとは云い条、この大学三年次における四月からの学習開始で約百日の期間があるとすれば、必要な勉強時間は次のように算定されるであろう。
すなわち、授業時間以外に一科目当たり一日四時間以上、簿記論と財務諸表論の二科目について同時に学習するなら、科目の類似性から期待できる相乗効果を考慮に入れたとしても、一日当たり六時間である。

これぐらい時間を費やして漸く、合格レベルか否かの分水嶺に到達すると思われる(当然、必ずしも合格するとは云いきれない)。



こうして積算してみると、まず二科目の受講は明らかに無理がある。

では簿記論一科目ならばどうか。

ベテラン受験生の目から見れば、可能性の芽はあるのだが——。


超速修コースのカリキュラム

四月に開講されたTACの ”超” 速修コースのテキストはどのようなものであったか書き記しておこう。

根が未練にできてる私はモノを棄てられず何にかと溜め込む質なのだが、当時のテキストも今なお我が居室の書架に鎮座している。
『基本テキスト』と銘打ったそれは五分冊で、「速修コース」との記載がある。 ”超” 速修コースではなく、 ”通常の” 速修コースである。

つまり、 ”超” 速修コース専用のテキストは無かったと云うことだ。

”通常の” 速修コースは一月に開講され、ひと月に一冊のペースで授業をこなし、それが五月まで続くのでテキストは五分冊となる。
六月からは答練と直前対策に移り、それが七月下旬まで続く。


私が罷り間違って迷い込んだ四月下旬開講の ”超” 速修コースでは、その ”通常の” 速修コースのテキストを流用する形で授業が行われた。

つまり五カ月かけて学ぶカリキュラムを、わずか二カ月で詰め込むのである。
通常なら一冊を一カ月のペースでこなす処、十日から二週間で仕上げるという塩梅である。


過密に組まれた講義スケジュールは、ひとコマ三時間の長い授業が朝九時から正午まで、それが午後にもうひとコマあり、簿記論については週三日、月水木に行われる。

同時に開講された財務諸表論については火金の授業である。

両方の科目を履修した無知蒙昧な私は、月曜から金曜まで、丸一日授業を受ける仕儀と相成った。


さて開講直後は両科目とも、狭い教室が満杯の盛況ぶりであった。



俺は一体どれぐらい勉強していたのだろうか

午後四時に授業が終わって水道橋から寄り道せずにF市に戻り、食事を済ませて居室に戻ればその時点で六時半から七時ぐらいである。

そこから脇目も振らずに集中して勉強すれば四時間の勉強時間は確保可能だが、やはり二科目について毎日六時間の勉強は余程気力が充実していたとて試験日まで体力が維持できないであろう。

最初から破綻した計画だったのである。

受験初心者で、しかも試験を嘗めた甘な考えでいた当時の私は、それぐらいの計算をする術も持ち合わせなかった。

受験以外の雑念、雑事はすべて絶って、身も心も勉強に捧ぐぐらいの気持ちが無ければ合格できぬと云うことは、ベテラン受験生を経た今ならばわかる。


当時の私はどうであったか。
勿論、自分としてはやる気十分のつもりだったと記憶している。


しかし、当時の日記帳をつぶさに読むと、数々のあきれる事実が記録されていた。






(続く)




跋語

◆◆最近読み終えた本(ブクログに記録中)◆◆

『夫婦の壁』/黒川伊保子/小学館新書/令和7年8月24日(日)読了

『論争と「詭弁」』/香西秀信/丸善ライブラリー/令和7年8月28日(木)読了



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